自分の庭にいざ植物を植えようと思っても、植物の種類は一般に20万から30万種あります。実際、日本の気候では育たない植物もありますが、「庭木図鑑」のような本を見ても400種類くらいが掲載されています。さらに、樹高や成長具合、日向や日陰、さらに、水を好むもの、好まないものなど植物の特性や性質の理解も必要です。そして、毎年開発される「園芸品種」も加わります。例えば、昨今、人気のオリーブ。厳密に言えば、オリーブだけで800種ほどあると云われています。普通の方々にとって、頭に浮かぶ樹種は、せいぜい数十種類程度はないでしょうか?
ここでは、弊社で実際に植えた樹木を中心に、庭師から見た樹木解説をさせて頂き、皆様の一助になればと思います。
主木とは、庭全体の構図を決める「比較的大きな木」程度にお考えください。庭に木を植える場合、樹木の高低差や葉張(木の横幅)などを組み合わせる必要があります。50センチ程度の樹木を並べたり、3M程度の樹木を並べても「立体的な空間」は出来ません。3Mの木もあれば、50センチ程度の木もある。そうした組み合わせで、庭的空間は構成されています。大きな庭では「主木」と言われる木は数本から数十本存在しますし、小さな庭では1本程度です。
コハウチワカエデ
【分類】 | カエデ科 カエデ属 落葉広葉樹 |
【学名】 | Acer sieboldianum |
【成長】 | やや遅い |
【高さ】 | 10~15m |
【病害虫】 | テッポウムシ、イラガ、アブラムシなど |
コハウチワカエデは、同種のハウチワカエデよりやや小振りな葉(8センチ程度)をしているため、コハウチワと言われるモミジの仲間です。一般に日当たりが良い場所が良いとされますが、経験上はあまり直射日光を強く受けるのは嫌いなように思います。イロハカエデなどの方が、日当たりに強いのではないでしょうか。
コハウチワカエデの魅力の一つが、葉っぱの可愛らしさではないかなと思います。赤ん坊の手のひらみたいです。また、イロハモミジに比べ、葉っぱの密度が低く、涼しげに見えます。
枝ぶりの繊細な感じが、雑木系の雰囲気を持っています。写真は、一階に植えたコハウチワカエデを二階リビングから見た様子です。
一階から見上げた様子。
三階から見下ろした様子。
綺麗な紅葉は、植えてから三年目くらいから見えるようになります。スマートなフォルムの樹形が多く、狭い場所でも下枝が少ない傾向にあるので邪魔になりません。剪定は、両手ハサミではなく、残したい枝に太陽が満遍なく当たるように、重なった枝や絡んだ枝を「梳く」ように切った方が自然な雰囲気になります。
コハウチワカエデにつく害虫はいろいろですが、最も注意する必要があるのは、テッポウムシと言われるカミキリムシの幼虫です。幹に穴を開け樹木に入り込みます。幹から木屑が出ますので観察していればわかります。駆除には専門の薬がありますので大抵のホームセンターで売っています
アオダモ
【分類】 | モクセイ科 トネリコ属 落葉広葉樹 |
【学名】 | Fraxinus lanuginosa f. serrat |
【成長】 | やや遅い |
【高さ】 | 5~15m |
【病害虫】 | 害虫はあまりつかないが、ゾウムシ、ハバチなど |
【備考】 | 雌雄異株 |
アオダモは、幹肌が白く上品な樹木として人気があります。雑木の雰囲気で、葉が繁りすぎず、涼しげな風情を感じます。比較的強健で枯れにくい木です。残念ながら比較的高温な近畿地方以南では、白い幹肌は徐々に灰色と変化していく傾向があります。野球のバットにも使われており、エンジェルスの大谷選手がアオダモのバットを使っています。白バナが春に咲きます。
シラカンバほどではないですが美しい幹肌。
頭上で葉を広げるため、通行の邪魔になりませんので狭い場所でも使えます。
アオハダ
【分類】 | モチノキ科 モチノキ属 落葉広葉樹 |
【学名】 | lex macropoda |
【成長】 | やや遅い |
【高さ】 | 5~15m |
【病害虫】 | 害虫はあまりつかないが、イラガなど |
【備考】 | 雌雄異株 オス株には実がつきません |
アオダモ同様、やや白い幹肌で上品な樹木ですが、近畿ではアオダモほどポピュラーではありません。ちょっと珍しい木として狙い目かもしれません。雑木の雰囲気で、葉が繁りすぎず、涼しげな風情を感じます。比較的強健ですが西日は嫌がります。もう一本の雑木をお探しならオススメです。アオダモより下枝からも葉っぱが出ます。
アオダモと樹形を比べて頂ければ木の雰囲気の違いを感じていただけると思います。葉はアオダモよりやや大ぶりです。
柔らかい、ナチュラルな雰囲気が好評です。
シマトネリコ
【分類】 | モクセイ科 トネリコ属 常緑樹 |
【学名】 | Fraxinus griffithii |
【成長】 | やや早い |
【高さ】 | 5~15m |
【病害虫】 | 害虫はあまりつかないが、スズメガの幼虫、シマケンモンの幼虫、ハマキガの幼虫 |
シマトネリコは、南方の出身のアオダモと同じトネリコ属の植物です。近年 シンボルツリーとして、よく植えられますが、昔は近畿では観葉植物としても販売されていました。小さな葉の常緑樹があまりないため、近年の雑木ブームの中でよく植えられるようになりました。単木と株立ちの物がよく販売されていますが、株立ちには、「寄せ株」と「本株」があり、注意が必要です。価格も違います。寄せ株は苗木の時に数本の木を集めて、株立ち状にしたものであり、本株とは一本を伐採し、そこから数本の幹が出てきたものです。単木に比べ株立ちの方が、成長はやや遅いといえます。
剪定は強いですが、北風には弱いです。また、春の終わりに白花を咲かせ、その後実が付きますが、花が咲いたら花を剪定した方が、葉が美しく保てます。
ジューンベリー
【分類】 | バラ科 ザイフリボク属 落葉広葉樹 |
【学名】 | Amelanchier canadensis |
【成長】 | 普通 |
【高さ】 | 5~8m |
【病害虫】 | アブラムシ カイガラムシ ハダニ うどんこ病など |
正式名はアメリカザイフリボクです。アメリカ、カナダに自生しています。ジューンベリーの名の如く、6月に赤い実を付けます。実は食用としてジャムなどにして食べれます。樹木としても雑木風で人気があります。また、ソメイヨシノと同じように、春に葉が出る前に白い花を全体につけ、大変美しいです。花、実、紅葉と楽しめるのが人気の原因です。
シンボルツリーとして植えてもいいですね。
冬姿です。
オリーブ
【分類】 | モクセイ科 オリーブ属 常緑樹 |
【学名】 | Olea europaea |
【成長】 | 早い |
【高さ】 | 2~8m |
【病害虫】 | あまり虫はつきませんが、オリーブゾウムシに注意 |
原産国はギリシャと言われていますが、紀元前700年から栽培されており、非常に多くの品種があります。基本的には二本植えないと実がつきませんが、最近では、一本で実をつけるタイプもあるようです。二本植える場合、花の時期が重なるよう同品種を植えられることをオススメします。
オリーブは、近年、種類の少ない常緑樹の一つとして植えられるようになりました。庭木としてはよく成長するため、一年に一度は剪定する必要があります。
枝が自由自在という感じで伸びるため、見た目をよくするには少し剪定技術が必要ですが、剪定してもよく伸びますのでご心配なく。
今まで高木を中心に見てきました。庭に彩りと立体感を与えるためには、主木と云われる高木だけでなく、中、低木や下草も重要です。今流行っている雑木風のナチュラルな植栽に使われる主木は、落葉樹が多く、冬は日差しを切らないため良い反面、見た目ではやはり寂しい感じがします。そんな時、出番となるのが低木や下草です。落葉樹の高木に常緑樹の低木を合わせることによって、一年を通じて庭を眺めていただけることになります。樹木植栽において、「冬姿」を基本にするのはそのためです。冬姿が美しい庭は、春や秋、夏にさらに美しくなることは簡単にご想像いただけるでしょう。
クロハトベラ(斑入り)
【分類】 | トベラ科 トベラ属 常緑樹 |
【学名】 | Pittosporum tenuifolium ‘Variegata’ |
【成長】 | 遅い |
【高さ】 | 0.5〜2m |
【病害虫】 | あまり虫はつきません |
正式名称はピットスポルム テヌイフォリウム バリエガツムですが、通称クロハトベラ(斑入り)で流通しています。斑入りとは、葉の一部が白斑が入っているものを指します。斑入り植物は、他品種にも多くあり、斑入り植物収集家もいます。
クロハトベラは、ニュージーランド原産でやや乾き気味の土壌が良いと思います。成長が遅いため、大きなものは高価になります。常緑樹で淡い緑と白い斑が冬の庭を明るくしてくれます。
剪定はあまり好きでありません。フラワーアレンジメントの花材としても使われますが、大きくなるまであまり剪定することをオススメしません。
寄せ植えにも使いたい樹木です。
寄年中同じ姿しているので本当に便利で安定しています。
ニューサイラン
【分類】 | キジカクシ科 フォルミウム属 常緑多年草 |
【学名】 | Phormium tenax |
【成長】 | 普通 |
【高さ】 | 0.5~3m |
【病害虫】 | あまり虫はつきません |
ニュージーランド原産です。やや乾いた場所を好みます。手入れは簡単で傷ついたり、弱った葉を根元で剪定することが基本となります。
この植物もフラワーアレンジの花材として使われます。ニューサイランは、特異な樹形をしていますので、大人しい庭のレイアウトを崩すアイポイントとして有用です。
ニューサイランは色々な葉色があり、使う種類によって大きく印象が変わります。
庭にあるニューサイランの葉を家中で飾ることでも楽しめます。
シモツケ ライムマウント
【分類】 | バラ科 シモツケ属 落葉低木 |
【学名】 | Spiraea japonica |
【成長】 | 普通 |
【高さ】 | 0.2~1m |
【病害虫】 | あまり虫はつきません |
落葉樹ですが、葉色が美しい落葉低木で育てることも簡単です。日本や朝鮮半島、中国が原産の園芸品種です。
春に花が咲き、寄せ植えにもよく使われる樹木です。開花期が長いのも特徴です。レンガや石にそわせて植えるとよく合います。
パニカム プレーリースカイ
【分類】 | イネ科 パニカム属 一年草 |
【学名】 | Panicum virgatum |
【成長】 | 毎年 |
【高さ】 | 1m〜1.5m |
【病害虫】 | あまり虫はつきません |
ちょっと変わったところでパニカムのご紹介です。パニカムは一年草のイネ科の植物です。非常に多くの園芸品種があり、葉の色も様々です。
冬には写真のように枯れますが、冬姿として風情があり、春前に刈り取るとまた芽を出します。ただの草のようにも見えますが、そこがまた自然な風合いを演出できるパニカムのさりげない魅力だと思います。
弊社で実際に植えた樹木を中心に、庭師の視点から「主木」と「低木/下草」をご紹介してきました。今後も追記していきたいと思います。お楽しみに。
投稿日:2020/02/29