西洋の伝統的な庭園が求める理想 〜「イギリス庭園の文化史 夢の楽園と癒しの庭園」から 〜

ご紹介したい本

イギリス庭園の文化史 夢の楽園と癒しの庭園

「イギリス庭園の文化史 夢の楽園と癒しの庭園」 著者:中山 理 出版:大修館書店(2003年)

「洋風 / 和風」というスタイルで庭は語られることが多いと思いますが、「洋風って何? 和風って何?」と考えるとよく分からないのではないでしょうか?

特に、石膏などで造られた塑像が庭に置かれていることはよく目にしますが、あれはギリシャ風なのに、なぜ、キリスト教圏の庭に置かれているの?と思ったことはないでしょうか?

日本の庭では、信楽焼きの狸や親子ガエルもありますが・・・

この本は、イギリス庭園の歴史や文化を辿りながら、こうした素朴な疑問にも答えてくれる良書。特に、歴史、文化、庭園、文学など著者の幅広い視野で語られる文化史は、形やスタイル、植物名ばかりが載っている庭の本と異なり、読み物としても大変面白い本です。

最期に日本の庭の歴史も簡単に紹介されているので、イギリス庭園の文化史を楽しみながら日本の庭園も対比的に知れます。

個人的に非常に興味深かった部分をご紹介します。

日清戦争の頃、日本を訪れたイザベラ・バードという女性冒険家?がおられます。彼女が日本での旅行記を残しておりそれが本となって出版されています。(詳しくお読みになりたい方は、「イザベラ・バードの日本紀行」 (講談社学術文庫/1871年)をご覧ください。)

著者は彼女が米沢平野を訪れた際の記述に注目されます。


米沢平野は、南に繁栄する米沢の町があり、北には湯治客の多い温泉場がの赤湯があり、まったくエデンの園である。鋤で耕したというより鉛筆で書いたように美しい。米、綿、とうもろこし、煙草、麻、藍、大豆、茄子、くるみ、水瓜、きゅうり、柿、杏、ざくろを豊富に栽培している。実り豊かに微笑する大地であり、アジアのアルカディア(桃源郷)である・・・(「日本奥地紀行」 著者:イザベラ・バード 約:高梨健吉訳 出版:平凡社(2001年))

バードは、意味ありげに米沢の町をキリスト教(ユダヤ教)的な「エデンの園」とギリシャ的な「アルカデヤ」とにたとえている。これは決して大袈裟な、奇をてらった表現ではない。この農村には、西洋の伝統的な楽園思想を満足させる基本的な要素が、見事なほどそろっているということを言わんとしているのだろう

この記述をみて、日本の方なら里山の風景を想われると思いますが、イギリス人であるバードにとっては、この風景はエデンの園であり、桃源郷であるとしています。イギリス庭園にとって、庭の理想はエデンの園でありアルカディアにありますので、日本の農村の生活の場が「ニワ」って感じることに驚かれるのではないでしょうか?

実際、イギリスの庭には、ベンチが置かれ、フラワーベッドと言われる花壇があり、また、大きな庭園ではヒツジや馬がいます。私たち日本人の考える静謐な雰囲気ではなく、ブドウや麦やイチジク、リンゴがたわわと実った場所。それが理想の庭なのです。

それは、果樹を一切植えなかった日本の庭と大変異なります。

私たちが無意識に庭に求めている枠組みを揺り動かしてくれる本ですので、庭について考えたい方はぜひ。また、文化史としても面白いですよ。

投稿日:2019/02/09

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